ー ぬいぐるみのお尻は冷たくないのか ー
 机の上に座っているぬいぐるみを見て、「お尻が冷たいのではないか」と思った。私は日々ぬいぐるみを作っているが、他者の手に渡ったぬいぐるみたちのお尻が冷たくなっていることを想像すると居た堪れない気持ちになる。
 特殊器台という弥生時代に作られていた土器がある。これは壺を乗せるために作られたもので、農耕祭祀に使われていたとされる。当時の壺は米や水などを貯蓄するための機能的な道具であったが、特殊器台は「壺を乗せる」という限定的な機能しか持たず、壺と一緒に用いることを前提とされている。そして、大切な壺を天高く飾ることこそが特殊器台の役割である。弥生時代の人々は自然と共生し、自然に感謝と祈りを伝える祭祀を重んじていた。祭祀で特殊器台を使い壺を高く持ち上げることで、自分たちの祈りが天に届いているという安心感を人々は得ていたと考えられる。私がぬいぐるみに抱いている不安は、壺にとっての特殊器台のような存在が解消してくれるのではないかと考えた。
 「すみか」はぬいぐるみを置く台である。主役であるぬいぐるみを支え、引き立てる役割を担う。すみかにはぬいぐるみと同じ素材である布を使用することで一体感出し、お互いを引き立たせることを狙いとした。すみかは、ぬいぐるみの存在をより際立て、ぬいぐるみの新しい家となる。この上にいれば大切なぬいぐるみのお尻が冷えることはなく、彼らは安心安全に暮らすことができる。
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